Drによる免疫Q&A

福岡大学名誉教授 永山 在明 先生

「免疫力」について

福岡大学名誉教授(元・医学部微生物免疫学教授)

永山 在明 先生 に教えていただきました。

1.なぜ免疫力を高めるのか?

免疫は「疫を免(まぬが)れる」という言葉通り、体が本来持っている、疫病(病気)を防ぐ力です。
免疫力が高くなれば、病気を予防できる。また、病気に罹っている人では病気が悪化するのを食い止めるので、病状が軽くなる、また治りが早まります。

2.免疫力の仕組みについて

私たちの体では免疫細胞が日々作られています。その免疫細胞が活性化・増加することで私たちの体内でウイルスや体内の異物を排除しています。
免疫細胞が強ければ病気の元を排除できます。逆に、免疫細胞の力が弱いとウイルスや体内の異物が増殖してしまいます。

図1 免疫力の仕組みについて

またここ10年くらいでわかってきたことですが、一部の疾患では「免疫抑制」という仕組みが働いて、免疫細胞が増えたり活性化することが難しい状態になることがわかってきました。それが病気の進行に大きく影響していることが判明しています。

3.「免疫抑制」とはなんですか?

健康な人の体中にある免疫細胞は病原体を排除しています。このとき免疫細胞が病原体だけを排除・破壊してくれれば良いのですが、もしちょっと働き過ぎるようなことがあると、どうなってしまうでしょうか?
 
そうなると、免疫細胞は体の中の正常な細胞まで排除・破壊するようになってしまいます。例えば、リウマチに代表される自己免疫疾患は、免疫細胞が暴走して正常な細胞までを破壊して引き起こされる病気です。
 
そこで、リウマチなどの病気を引き起こさないように、健康な人は、免疫の暴走を抑える「免疫抑制」という仕組みをもともと持っているのです。つまり、「免疫抑制」の仕組みは、私たちが免疫力を正常にコントロールして、日々健康に過ごす上で欠かすことの出来ない大切な働きなのです。

図2 免疫細胞と免疫養成細胞、正常細胞(プラスに作用している状態の免疫抑制細胞)

近年、一部の疾患では「免疫抑制」の仕組みが悪用されていることがわかってきました。「免疫抑制」を促す物質(免疫抑制物質)や細胞(免疫抑制細胞)を増やして、「免疫抑制」を異常なレベルまで進行させるのです。その結果、免疫細胞を増やしたり活性を高めることが難しくなり、免疫力で異物を排除する力が、異物の増殖力に追いつかなくなるのです。

図3 免疫細胞と免疫養成細胞

4.免疫抑制の状態で免疫力を高めるには?
「免疫抑制」状態になると、免疫細胞を増やしたり活性を高めることが難しくなります。この状態で、直接免疫細胞を活性化しようしても難しい問題があります。まずは「免疫抑制」を低減することが大切です。さらに、免疫抑制が低減するだけで、免疫細胞は十分増えたり活性化することがわかってきました。
 
現在、様々な企業が「免疫抑制」を低減させる医薬品の開発を進めています。
私たちは、天然由来/食品成分のシイタケ菌糸体エキスが「免疫抑制」を引き起こす「免疫抑制細胞」を抑える作用に着目して研究しています。

関連する主な研究成果:「シイタケ菌糸体抽出物の経口摂取による担癌での免疫抑制解除と抗癌ペプチドワクチン効果の増強.」
(Tanaka K, Cancer Immunol Immunother. Nov;61(11):2143-52(2012)

5.QOL(クオリティオブライフ)とは?

QOLは「生活の質」と訳します。医療におけるQOLは、治療中や治療後において患者さんが人間らしい生活を営めることを意味します。そこには副作用のような身体的な状況だけでなく、金銭面、精神面、社会面など生活のあらゆる面で「質」が保たれていることを含みます。
現在の医療においては、単純に病気を治すことだけでなく、QOL「患者さんの生活の質」を高めることが重視されています。
 
難治性の疾患に関しては、それぞれ代表的なQOL指標あります。例えばEORTC QOL-C30では、以下のような指標になります。
 
機能の尺度:
1. 身体5、2. 役割2、3. 認識2、4. 感情4、5. 社会2
  
症状の尺度:
1. 疲労3、2. 嘔気・嘔吐2、3. 痛み2、4. 息苦しさ1、5. 不眠1、6. 食欲不振1、7. 便秘1、8. 下痢1
  
その他:
1. 全般的QOL2、2. 経済的影響1

関連する主な研究成果:「がん患者におけるシイタケ菌糸体抽出物配合顆粒のQOL改善作用:多施設共同研究」
(KYO H 日本補完代替医療学会誌 14 ,57-64, 2017)

6.体力の研究の重要性について

治療を継続できる・・・・治療の成功率が高まる・・・・
体力を高めることは、健康な人はもちろん、病気の方において特に重要になります。病気を治すためには体力が土台となるからです。体力が高まれば、病気を治すための様々な取り組みができ、成功する確率が高まることが期待できるからです。
なので、前述のQOLでも「疲労」などの項目が重視されています。

関連する主な研究成果:「乳がん術後ホルモン療法による免疫・体力へのシイタケ菌糸体の有用性検討」
(Nagashima Y, Onco Targets Ther 6:853-859. 2015)

■免疫の素材について

7.シイタケ菌糸体エキスに注目する理由は?

私たちの研究では、免疫力が低下した患者さんが摂取すると、免疫抑制が低減し免疫力の活性が高まったというデータを報告しています。また、私たち以外の複数のグループからも、免疫力が低下した患者さんの免疫力を改善・高める作用について報告がされています。
私たちの身体を健康に保つのに大切なのは「免疫」です。シイタケ菌糸体は、その免疫細胞を正しく機能させるのに重要な「免疫抑制」に関わっていることが明らかになりつつあります。非常に注目される研究だと思います。

8.天然由来/食品成分を研究する意義は?

現在、多くの人が健康のために天然由来/食品成分に着目しています。
天然由来/食品成分は私たちが毎日のように口にするものです。それで健康維持・身体のケアができることは、身体ケアの一つの理想の形だと思います。
だからこそ研究者として、本当に生活者の方の役立つものを見極めるには、どのような働きがあるか?だけでなく安全性や作用機序(身体の中でのメカニズム)までキチンと調べる必要があります。
安全性試験や動物試験から、ヒトでの臨床試験まで途切れることなく地道な研究を継続していくことが重要だと考えます。

関連する主な研究成果:「健常成人におけるシイタケ菌糸体抽出物(L.E.M.)配合食品過剰摂取時の安全性」
(吉岡康子: 日本補完代替医療学会誌, 2009)

9.ベータグルカンとはなんですか?

グルカンとはD-グルコース(糖)がたくさん結合してできた多糖体と呼ばれる構造の成分です。糖の結合の仕方がベータ型とアルファ型に分かれているため、それぞれベータグルカン、アルファグルカンと呼ばれています。
ベータグルカンの中にも実は水溶性のものや水に溶けない不溶性のもの、糖の結合の仕方などによって色々と種類があります。
いわゆる免疫向上の研究が進んでいるベータグルカンはβ-1,3-グルカンといい、アガリクスやシイタケ菌糸体、メシマコブ、霊芝などキノコ類などに含まれています。

10.アルファグルカンとはなんですか?

グルカンとはD-グルコース(糖)がたくさん結合してできた多糖体と呼ばれる構造の成分です。糖の結合の仕方がベータ型とアルファ型に分かれているため、それぞれベータグルカン、アルファグルカンと呼ばれています。
通常、アルファグルカンとベータグルカンが1つの食品成分の中に混在することは少ないです。そのため、シイタケ菌糸体には両方の成分が含まれるのが特徴になります。
結合の仕方が違うと免疫細胞への作用の仕方も違ってきますので、ベータグルカンにはなく、アルファグルカンにしかない作用の研究も近年進んできています。

■研究レベルについて

11.ランダム化二重盲検比較試験とは?

プラセボ対照二重盲検比較試験、ダブル・ブラインド・テストとも言います。
「プラセボ対照」とは、臨床試験を行う時に被験者群を本当の薬を投与する群と偽薬(プラセボ)を投与する群に分けることを意味します。
「二重盲検」とは、プラセボ対照の臨床試験を、患者だけでなく医師、スタッフなど投与する側も含めて誰も知らない状態で行うことを指します。
医薬品などの開発において、患者の主観だけでなく、医師・スタッフの主観も取り除き、本当の効果を見極めるための研究スタイルです。非常にエビデンス(科学的根拠)レベルの高い研究方法になります。
例えば、エビデンスのレベルの一例としては、「診療ガイドライン作成の手引き2014」の下記があります。
 
Ⅰ  システマティック・レビュー/RCTのメタアナリシス
Ⅱ  1つ以上のランダム化比較試験(プラセボ対照二重盲検比較試験)による
Ⅲ  非ランダム化比較試験による
Ⅳa 分析疫学的研究(コホート研究)
Ⅳb 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究)
Ⅴ  記述研究(症例報告やケース・シリーズ)
Ⅵ  患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見

関連する主な研究成果:「ランダム二重盲検試験による評価: シイタケ菌糸体エキスによる術後化学療法を実施する乳がん患者のへQOLと免疫機能の改善作用」
(Nagashima.Y Molecular and Clinical Oncology. 7 359-366. 2017)

12.学会発表と論文発表の違いは?

まず、学会とは研究成果を公開・発表し、その科学的妥当性を検討する場です。なので、通常新しい研究成果が得られた場合に学会発表を行います。学会は検討の場でもあるので、発表の申し込みで断られることは基本的にありません。
論文誌に掲載する場合、まず、研究成果を文章で学会等に送付します。その上で査読(さどく)といわれる各分野の専門家による水準に達しているかどうかの審査をされます。もし不適切と判定されれば返却されますし、掲載されるにしても時間がかかります。
そのため、一般的に厳しい審査がある論文の方が高く評価されます


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